研究者のための映像制作入門

ソーシャルメディア時代の研究アウトリーチ戦略

 

タイトル:研究者のための映像制作入門 ー ソーシャルメディア時代の研究アウトリーチ戦略
講師:松山 洋一 (カーネギーメロン大学 Language Technologies Institute 研究員)
日時:2018年1月10日(水)13:00 – 14:30
場所:早稲田大学 実体情報学博士プログラム 「工房
対象:早稲田大学 理工学術院 修士課程学生、博士課程学生
準備物:普段使用している動画撮影可能なカメラがあれば,ご持参ください

 

概要

本講義では,研究を世界に向けて効果的に伝えるためのアウトリーチ戦略,特に映像の制作の基本についてワークショップ形式で皆さんと一緒に考えていきたいと思います.個人が発信する情報が即時に世界に伝播するソーシャルメディアの時代,研究者自身の情報発信能力もまた改めて問われています.研究成果を研究論文として発表することは当然のこと,それを多くの人に語ることもまた研究者に求められる能力です.かつて大科学者マイケル・ファラデーは,彼自身優れた科学者であると同時に優れた科学コミュニケータ,広告塔でもありました.ファラデーがクリスマスに一般聴衆に対して,目の前でロウソクが燃える様子を見せて科学の深淵を語った「ロウソクの科学」は,文学的甘美さも称え,後代の科学者たちに与えた影響は絶大なものがありました.現在,ウェブサイトやソーシャルメディアを通して語られた研究成果はあっという間に世界中に共有され,事実それによって研究費獲得やコラボレーションのチャンスもまた大きく広がっています.システムのデモ映像や研究プロジェクトの紹介映像はストーリーを伝えるための強力なツールです.研究者のための映像制作とは,つまり自分自身の世界の見方を他者にどう語るかについて考えるプロセスそのものとも言えるでしょう.とりたてて派手である必要はないですが,達意である必要はあります.その出来が実際に研究者生命にも関わっているとしたらどうでしょうか?本講義では研究者が自ら「メディア」となる意義,そしてその効果的な方法としての映像制作の基本についておさらいします.本講義は,以下の項目から構成されます.
  1. 映像のテーマと視聴対象を定める
  2. カメラ設定の基本
  3. レンズ,構図の基本
  4. ライティングの基本
  5. 音声収録の基本
  6. 編集の基本
  7. 参考になる学習リソースの紹介
以上の基礎知識を共有した後,時間の許す限り実機を用いての実習を行います.またそれに続く質疑応答で共通する問題について考えていきたいと思います.

 

当日の様子

 

講演者略歴(松山 洋一)

カーネギーメロン大学 Language Technologies Institute および Human-Computer Interaction Institute 研究員.2015年早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工学専攻 博士(工学).映画監督に憧れる少年時代.文学部時代に映画サークルで仲間と映画作りに明け暮れ,傍ら認知心理学やメディア論,都市社会学を学ぶも,大学3年生のときに突如,社会的知能ロボット開発への道に啓示を受け,早稲田理工学部の知覚情報システム研究室(小林哲則研究室)の門を叩いて,会話ロボットの研究の道へ.カーネギーメロン大学に移った後は,ワールドクラスの研究者達と共に多くの会話エージェントプロジェクトに参画して現在に至る.高齢者支援ロボットから多人数会話ファシリテーションロボット SCHEMA (シェーマ),スマートフォン向けパーソナルアシスタント InMind,ダボス会議バーチャルアシスタント SARA (Socially Aware Robot Assistant) まで,一連の会話エンターテイメント技術開発稼業.深層学習,自然言語処理,ロボット制御,ありとあらゆる洗練された理論と技術は研究され投入される必要はあるが,命をかけるべきはユーザ体験.メディアの発明において科学と芸術の融合はデフォルト.人生のミッションは,都市・身体・言語の情報の結節する会話ロボットメディアの表現方法を確立して,21世紀の物語体験を提供していくこと.

 

早稲田大学 実体情報学博士プログラムは,機械技術(=実体)と情報・通信技術の融合学として「実体情報学」を構築し,この新しい領域で技術や産業のイノベーションを先導することができる先見力,構想力,突破力を兼備した産学官いずれの立場からも産業創出を支えることのできる人材の育成を目指した大学院プログラムです.

 

 


マイケル・ファラデーの「ロウソク科学」については,松岡正剛氏の素晴らしいレビューがあります.ウィリアム・クルックスの書いた,本書への序文を転載します(角川の立ち読みサービスより).

ロウソクの科学 序文

原始時代のたいまつからパラフィンロウソクにいたるまで,その道のりの何と遠いことであろう.
その二つのあいだのへだたりの,何と大きいことであろう.
人間が暗夜にその家を照らす方法は,ただちにその人間の文明の尺度を刻む.
不細工な素焼のかわらけに赤黒い炎をあげて燃える東方の国の液状瀝青,精巧でもその役目を果しかねたエトルリア人のランプ,エスキモーやラップ人の小屋を光よりも悪臭で満たす鯨やアザラシや熊の油,きらびやかな祭壇を照らす巨大なワックスロウソク,この国の街路にならぶガス灯の列ーこれらのすべては,それぞれに語るべき物語をもっている.
もしも彼らに口がきけたなら,そして,それは彼ら自身の方法でできるのであるが,これらすべての灯火は人類の愉楽,家庭愛,勤労,そしてまた信仰にいかに奉仕したかを語って,われわれの心をあたためてくれるであろう.
先史時代に生きた火の崇拝者,火の使用者の幾百万の人のうちには,疑いもなく火の神秘について思いをめぐらしたいくたりかがいた.
おそらくは,いくつかの迷いなき心が,いちはやく真理のそばに近づいたことであろう.
人類が救いのない無知の中に生きた時代を思ってみるがよい.
一人の人間の生命がまたぐつかのまに,真理があばかれることを思ってみるがよい.
原子また原子,環また環と,論理の鎖はきたえられていく.
いくつかの環はあまりに性急に,あまりにか弱くつくられたためにこわれ,そして,よりよき細工におきかえられる.
しかしいまや,大いなる現象はすべて知られ,その輪郭は正しく確かにえがかれて,腕ききの画家たちがその余白をうめつつある.
この講演を修得する子どもは,火についてアリストテレス以上に理解する.
ロウソクはいまや,自然界の暗黒の場所を照らしだすためにつくられた.
吹管とプリズムとは,地殻に関する知識を追加しつつある.
しかし,たいまつの光,いや知性の光はまっ先にたたねばならぬ.
本書の読者のうちのいくたりかは,知識の蓄積を増すことに一生を捧げることであろう.
科学のともし火は燃えあがらねばならぬ.

炎よ行け.

W・クルックス(三石巌 訳)

 

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